写真測量から没入感のあるVR体験を構築
自然のままのビーチ、何段にも連なる滝、手つかずの森林で知られる済州島(チェジュ島)。
この島には毎年1,500万人の観光客が訪れており、着陸する飛行機は1日だけで178便に及びます。この韓国最大の島には66万人が暮らしていますが、観光客の数はそれを大きく上回っています。しかし、潜在的な観光需要はさらに大きいと考えられています。
済州島の美しさをさらに多くの人達へ届けようとしている企業が、Drone Orange Co, Ltd(通称DO2)です。同社は済州島を拠点とし、この島をまったく新しい方法で体験できる仮想現実メディア、拡張現実メディア、インタラクティブメディアを製作しています。
プロジェクト詳細
会社 | Drone Orange |
ロケーション | 済州島、韓国 |
ハードウェア | DJI Phantom 4 Pro ドローン |
ソフトウェア | Pix4Dmapper |
GSD | 3.5 - 8cm |
アウトプット | 済州島世界遺産VR飛行シミュレーター AR (拡張現実)プログラム 3D-プリントされた現実的なミニチュア VR (仮想現実) ジオラマ |
360度動画と仮想現実
革新的なテクノロジーが済州島の観光PRに活用されたのは、このプロジェクトが初めてではありません。2016年に同社チームは、複数のカメラで撮影した360度動画を利用して、初の済州島フライトシミュレーターを開発しました。
当時、プロジェクトは成功を収めましたが、Drone Orange社CEOであるMoses Jungによれば、360度動画には仮想現実と比べて次のような欠点がありました。
- 画質が悪い
- 3D映像の奥行きが少なく感じられる
- 視聴者は決められた飛行ルートを辿るだけで没入感が薄い
チームはテクノロジーの検討を重ねた後、360度動画を改善するよりも、Pix4Dで環境を再構築した方が成果が得られると結論づけました。
韓国最高峰のデジタルツイン
漢拏山は韓国の最高峰であり、ユネスコの世界遺産登録地であるとともに、済州島の人気観光スポットの1つでもあります。Drone Orange社のチームは、この山を3Dで再構築するという難題に挑みました。
チームは韓国政府とJeju World UNESCO Heritage Centerから許可を得て、DJI Phantom 4 Proドローンによる撮影に臨みました。
当時の様子について、Jung氏は次のように回想しています。「漢拏山は韓国の最高峰ですから、頂上付近の天候は絶え間なく変化します。山頂にたどり着くまでおよそ6時間かかり、しかもたどり着けたとしても天気に恵まれる保証はありませんでした。」
「ありがたいことに天候は良好でしたが、私たちに認められたドローンの飛行時間はわずか1時間、最長でも2時間しかありませんでした。それでも、幸運にも必要な撮影をすべて終えることができました。」
困難は、有名な城山日出峰などの撮影地でも待ち受けていました。
コンパスの誤動作が絶えず問題になっていました。「この地 域の地質に原因があると思うのですが、飛行時間の大部分を手動で飛ばすことになりました。」(Jung氏)
天候の悪化により飛行計画が中断されることもありました。一方で、天候が回復すると観光客も姿を表します。城山日出峰への立ち入り規制を最小限にするために、Drone Orange社のチームには1回あたり1時間ないし2時間の飛行時間しか許可されませんでした。
当局は、ドローンの飛行状況も厳しく監視していました。済州島の大部分はユネスコの世界自然遺産地域であるため、ダメージを一切及ぼさないよう求められていたのです。
データの結合
Pix4Dmapperは、測量レベルのマップと高精度の3Dモデルを作成するソフトウェアです。没入感のあるVR体験を構築するには、まったく別のプロセスが必要になります。
それぞれの撮影地での画像の撮影は2時間ほどで終了しました。Pix4Dmapperでの処理は2日で完了したものの、プロジェクトの納品には7か月かかりました。
「この先駆的プロジェクトは韓国初の試みでした。もしかすると、世界初の試みだったかもしれません。」と、Jung氏は語ります。「本プロジェクトの特徴は、非常に多くのテクノロジーを組み合わせていることです。ドローンで撮影してマッピングを実施した後、Pix4Dで3D点群化とモデル化を行い、メッシュの編集を実行した後に、データを3D Max/Z-Brush、Unityリアルタイムゲームエンジン、VRプログラムの順に移行しました。最後に、モーションシミュレーターの乗客用データと、ミニチュア制作のための3D印刷データを作成しました。」
「Pix4Dの結果を利用せずに、何もない状態から3Dモデルと三角形メッシュを作成していたら、さらに時間がかかったことでしょう。Pix4D以外のソフトウェアを使うという選択は考えられませんでした。」
「ドローンマッピングは多種多様なビジネスや技術分野に応用可能な技術であることを、このプロジェクトが実証してくれることを願っています。」
素晴らしいテクノロジー、没入感のある体験
Drone Orange社の成果は、済州島にあるPlaybox VRで体験できます。
シートベルトを着用してシートに座れば、島の上空を飛びながら観光地巡りを楽しんだり、ロケット駆動のジェットコースターで島中を走り回ったりできます。
島をゆったりと見て回りたい方向けに、拡張現実(AR)に対応した3Dプリントモデルも用意されています。このモデルはPix4Dmapper で作成された後3Dプリントされ、Pix4Dmapperプロジェクトを参考に手作業で色付けされています。
また、観光客が持ち帰って楽しむための3D模型も販売されています。
Jung氏とDrone Orange社チームは、Playbox VRが今後の観光の目玉になることを願っています。済州島を訪れる数百万人の観光客に毎年違うアクティビティを提供できるだけでなく、漢拏山の頂上まで登ることが困難な人にも、島を楽しんでもらうことができます。また、まったく新しい方法で済州島を楽しみたいという人にも、Playbox VRは魅力となるでしょう。