ハリケーンドリアンは、バハマ史上最悪の自然災害となりました。グランドバハマ島では約半数の家屋が破壊され、数千人が仮設の避難所での生活を余儀なくされており、できる限り 速やかな再建の開始が求められています。
カナダのNGOであるGlobalMedicは、バハマ政府と連携して食料を配給し、伝染病の発生を防ぐための水フィルターを提供していました。ほどなく、GlobalMedicのチームはグランドバハマ島港湾局 のGISアナリストであるAmit Seeram氏、さらにバハマのGIS専門家であるRenardo Karageorgiou氏の協力を得て、FLIR Systems SkyRanger R70ドローンとPix4Dreactを用いた被害状況のマッピングに着手しました。
プロジェクト詳細:ハリケーンドリアン
緊急対応チーム | GlobalMedic |
ロケーション | バハマ、グランドバハマ島 |
ハードウェア | FLIR Systems SkyRanger R70 |
ソフトウェア | Pix4Dreact |
「政府関係者は、高品質のマップがこれほど短時間で作成されたことに驚嘆していました。」そう語るのは、GlobalMedicでRescUAVチームリードを務めるJowett Wong氏です。.
「このマップのおかげで、車で被災地域を調査する『車中評価』を行わずに済むことになりました。これは、非常に時間のかかる作業なのです。ドローンの画像から、私たちNGOと政府関係者の双方が状況を認識し、復旧プロセスを開始するとともに、現在の被災状況を把握することができたのです。」
5人からなるチームの1日は、朝8時、政府からマップ作成を要請された被災地域の1つに向かうことから始まります。
重点的な調査地域は、島の中心部を横断する水路系であるグランドバハマ水路でした。この水路は大規模な高潮により甚大な被害を受け、水路そのものとインフラが破壊され、両岸のコミュニティの荒廃を招きました。
ハリケーンドリアンによるバハマの被害状況
カテゴリー5のハリケーンが2019年9月1日にアバコ諸島を通過、翌日にはグランドバハマ島に上陸して、丸一日停滞しました。時速295kmもの暴風と7mを超える高潮によって、甚大な被害がもたらされました。9月3日、ハリケーンドリアンがグランドバハマ島を通過する頃には、島の60%が水没していました。
死者61名、行方不明者は数百人に達しました。全体として、76,000人がこのハリケーンによる被害を受けました。物理的被害額は70億米ドルと見積もられています。ハリケーンドリアンは、バハマ史上最悪の自然災害となりました。
FLIR Systemsの小型無人航空機・ロボットテストエンジニアリング部門でマネージャーを務め、今回ドローンパイロットとして活動したAndrew Huang氏は、次のように語っています。「マッピングミッションを進める中で、この水路系の中心地域の1つに住む島民と話をする機会がありました。彼はその地域で唯一、ハリケーンの襲来から通過までを体験した人物でした。正確な高さはわかりませんが、15フィートないし20フィートに達する高潮が彼の隣家を飲み込んだそうです。屋根の上まで。」
Huang氏は続けます。「彼の家は巨大ハリケーンに耐えられる構造になっていましたが、私たちは付近の家屋の屋根に大量の水がたまっていることに気付きました。高潮はそこまで到達したのです。」
チームに、交代までにできるだけ多くの支援を行おうという機運が生まれました。
「ここには2週間滞在しています。1日中土砂降りだった日を除いて、毎日ドローンを飛ばしています。」(Huang氏)
「しかし、気象状況は非常に不安定です。雨が降らない快晴の天気 予報が出ていなくても、作業を進めています。私たちがいるのは、人々が住む家を失った災害現場です。Pix4Dreactでデータをスティッチングしてマップを作成するには、ドローンを飛ばしてそのデータを収集しなければなりません。人々が災害から立ち直って元の生活を取り戻すために何が必要なのか把握するために、このマップが必要なのです。当社はFLIR Systems SkyRanger R70を、今回のように重要な情報を迅速に提供することが求められる状況に対応した全天候型ドローンとして開発しました。」
チームは拠点に戻るとすぐに、画像をダウンロードして処理を始めます。Wong氏によれば、スピードが極めて重要です。 「政府が求めているデータを配布しているNGOに、情報を共有することで、NGOが被災地の状況に関するほぼリアルタイムの情報を入手できるようにしています。」
Pix4Dreactが活躍
GlobalMedicは、コロンビアで甚大な被害をもたらした地すべり災害をきっかけに、Pix4Dmapperを災害支援活動に導入し、マップの作成に利用してきました。しかし、GlobalMedicチームがバハマに持ち込んだラップトップでは、すぐに容量が不足してしまいました。
そこで、チームはPix4Dreactを使用する決断を下します。
「Pix4Dreactを初めて見たとき、素晴らしいと感じました。非常に使いやすいソフトウェアです。」そう語るのは、Huang氏です。「写真データを追加して開始ボタンをクリックすれば、後は放っておくだけです。」Pix4Dreactは緊迫した状況で活動する災害対応チームのニーズに応えるために開発され、簡単に使えるように設計されています。
Wong氏が付け加えます。「こうした状況だったので、最初の数日間はブロードバンドインターネットを利用できませんでした。携帯電話を使ったネット接続に頼ることになり、データの詰め込み過ぎで携帯電話が溶けかかっているなんて冗談を言い合っていました。」チームにとって、ミドルク ラスのラップトップでオフライン処理を行えることがPix4Dreactの大きなメリットでしたが、それだけではありませんでした。
「スライダー機能には驚きました。これは、被災前後の状況を比較して表示できるという素晴らしい機能です。私たちは地上で現地を見ていますし、ドローンを飛ばして空からも状況を把握しています。ひどい状況であることは理解していたはずでした。しかし、初めてその甚大な被害を実感できたのは、スライダー機能を使用して私たちが前日に撮影した画像を衛星画像に重ねて、2枚の画像を切り替えながら見たときでした。」(Huang氏)
「チーム内で話し合い、Pix4Dreactを主軸に据えることに決めました。」(Wong氏)
準備しておいたハードドライブに画像を保存しておけば、後日(他のハードウェアで)Pix4Dmapperを使用してさらに詳細なマップを作成することができます。
チームでは真夜中ごろ作業を終える前に、完成したマップをよく当局や他のNGOに提供 しています。
「状況が深刻ですから、初期対応者にこの種の情報をこれだけ迅速に提供できるのは素晴らしいことです。」と、Huang氏は述べています。
未来につながるマッピング
荒廃した風景の中で、チームは成果を上げることに専念しています。
Wong氏は次のように語っています。「忘れられないのは、ある農場のマッピングを頼まれたときのことでした。高潮は、農場の厩舎の屋根にまで達していました。私たちが話を聞いたのは、農場で馬を飼育していた農場主の夫婦でした。農場主は私たちに、娘が可愛がっていた馬が行方不明なので、この地域をマッピングして探してくれないかと頼んできました。小さな少女は馬の亡骸が埋められてしまう前に、そのたてがみを一房取っておきたいと願っていたのです。そこで、私たちはPix4D Cloudにマップをアップロードし、地元に戻っていたスタッフにマップを精査して馬を探すように頼みました。」
「この仕事では、政府を支援できるだけではありません。小さな少女と、その家族も助けられるのです。このことに私は強く感銘を受けました。難しい仕事ですが、この素晴らしいチームのおかげで、なすべき使命をスムーズに進めることができています。」
「このマップを、できる限り多くの人に届けることが私たちの望みです。このデータは、復旧計画と復興事業に大きく役立つことでしょう。」(Huang氏)
画像はGlobalMedic、 FLIR Systems、そしてグランドバハマ島港湾局からご提供頂きました。 |