災害ドローン救援隊DRONEBIRD、 台風19号の緊急撮影画像をPix4Dでオルソ化
2019年10月、台風19号(ハギビス)は日本列島を縦断し、多数の死者、行方不明者に加え、河川の堤防決壊、土砂崩れなど甚大な被害をもたらした。令和2年になった今でも、まだ記憶に新しい。
台風19号の被害状況の把握のために災害ドローン救援隊DRONEBIRDが行ったマッピングには、Pix4Dクラウドでのオルソモザイク処理が活用された。今回のクライシスマッピングを率いた、特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパンの理事長である古橋大地教授は「他のソフトウェアも併用したが、結果として大容量のデータを効率よく処理することができたPix4Dクラウドは、DRONEBIRDの活動にとって有効でした」と語る。
DRONEBIRDとは
災害発生時には衛星写真などのデータを元にマッピングが行われるが、その作業に災害発生後2日間以上かかることが大きな課題となっている。DRONEBIRDはそのため、被災状況を詳細に伝える画像データを迅速に取得できる最新鋭ドローンを正確に操縦できるパイロットを、市民の中から育成する計画を立ち上げた。全国地域と連携しながら、市民パイロットを「ドローンバード隊員」として全国に配備することで、どこで災害が起きても現場に急行でき、最短2時間以内に空撮し、その情報を公開することを計画している。
2020年2月、現時点のドローンバード隊員は582名、クライシスマッピング対応回数は32回、防災協定締結自治体は28に上る。DRONEBIRDの活動状況 はFacebookのページで確認できる。
台風19号の被害状況をマッピング
台風通過直後の現場は、危険も伴う。緊急撮影のアウトプットはプライバシー保護のため、静止画直下視撮影で、オルソ補正まで行うことが必要であった。そのため今回の緊急撮影には、ドローンバード隊員のスキルとして以下を必須とした:
- オートパイロットでオルソモザイク用途の撮影が可能であること
- 撮影時のオーバーラップ率70%以上を確保できること
- 撮影位置のGPS情報をExifメタデータとして埋め込んだjpg画像をオンラインストレージ(Google Drive/GitHub等)で管理できること
プロジェクト詳細
ロケーション(協定自治体) | 相模原市、世田谷区、調布市、狛江市、町田市、君津市 |
チーム | DRONEBIRD |
ハードウェア |
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ソフトウェア | Pix4Dmapperクラウド |
作成されたマップ数 | 12 |
合計画像枚数 | 約5,000枚 |
マップされた面積 | 合計 約50km² |
処理方法 | GCP不使用、単独測位GPSをそのまま利用。一部RTK使用 (eBee X) |
完成までの時間 |
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GSD | 3〜5 cm/pixel |
アウトプット | オルソモザイクされた GeoTIFF(画像、DSM)、点群データ |
協力団体及び個人 |
現場の状況について古橋教授はこう振り返る。「相模原市の被災地は急峻な地形の多い中山間地域であり、多くの通行止めや、それに伴う渋滞で撮影の移動が非常に困難でした。10月14日は、天候条件が悪く雨が止んだタイミングでの空撮となったので、それ以降はできるかぎり天候条件の良い日程を選び、作業チームの安全最優先で実施しました」。
「また、超大型台風の通過後の混乱の中、被災地の方々への災害協定内容説明や、離発着場所の協力依頼など、ドローンオペレータ以外のスタッフとチームを組んでコミュニケーションをとる作業は予想以上に多かったです。現場での周知説明には県庁や市のバックアップが効果的でした。調査チームは必ずドローンオペレータと補助員スタッフで、2~3名以上で活動する必要があります」。
10/14(月) |
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10/16(水) |
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10/20(日) |
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10/22(火) |
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10/27(日) |
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Pix4Dmapper クラウドで作成されたオルソモザイク画像はOpenAerialMapにて、オリジナル画像やXYZタイル画像データはGithubにて、CC BY 4.0のライセンスポリシーの元、ダウンロード可能なデータとして公開している。OpenAerialMapに公開したマップを元にOpenStreetMapを更新していく流れだ。
災害協定を結ぶ自治体と各関係者の連携プレー
もちろん、緊急時のマッピングには訓練を重ねたドローン操縦士に加え、行政との連携が必須となる。「私達は日本の28の基礎自治体と共に、災害時迅速に空撮活動を行うために日々訓練と災害協定を提携して有事に備えています。このような準備があるからこそ、災害発生時の混乱の中でも比較的スムーズに空撮業務に取り組めます」と、古橋教授は語る。
DRONEBIRDが緊急撮影を行った相模原、調布・狛江、世田谷、町田、君津での無人航空機の運用にあたっては、各自治体と災害協定を結ぶDRONEBIRD/クライシスマッパーズ・ジャパンとして行動し、神奈川県からも委託を受けた上で、神奈川庁災害対策課内に設置された航空管制と密接に連携をしながら航空法132条その3に則った運用を実施した。
広範囲撮影における固定翼ドローンeBee Xの活躍
今後取り組みたい課題の1つとして、回転翼と固定翼ドローンの使い分けについても古橋教授は掲げる。災害被害把握のための撮影に使用するドローンについては、運用の安全面や離発着の場所の確保など、様々な要素を考慮し速やかな判断が必要となるからだ。
広範囲の撮影では、senseFlyのeBee Xなどの固定翼がその本領を発揮し た。マッピングした約50km²のうち、半分以上の 26km²はeBee Xで撮影された。(調布狛江6km²、町田5km²、君津15km²)撮影枚数は約4000枚にのぼった。
48時間以内に結果まで
結果として、DRONEBIRDは各箇所の撮影からSfMでのオルソ作成、データ公開まで約2日間で実施することができた。Pix4Dmapperクラウドで処理したデータは、すぐに自治体関係者が閲覧することができた。また、Pix4Dクラウドの処理を利用することで、隊員が現場から現場へ移動中も解析処理が実行され、効率よくオルソモザイクを作成することが出来た。
公開された情報は、各自治体で状況把握のために使用された。古橋教授はこう説明する:「今回の空撮支援は各自治体にとって初めての事例だったため、その利用方法についてはまだまだ試行錯誤の段階だと感じています。君津市は罹災証明発行の補助データとしての利用、相模原市は首 長による被災状況説明の基礎資料として用いたりと様々ですが、撮影されたデータがいつでも閲覧可能になりましたので、次への備えとしてデータ利用の訓練データの利用も増えてくると思います」。
Pix4Dreactの動作確認と今後の期待
惜しくも台風19号の緊急マッピングにはリリースのタイミングが間に合わなかったが、DRONEBIRDはPix4Dreactがリリース以来、次の災害対応の準備のためにも積極的に動作確認に取り組んでいる。
Pix4Dreactは、緊急時対応用のためにデザインされた高速2Dマッピングソフトウェアだ。 オンラインでプロジェクトを処理するPix4Dmapperクラウドと違い、Pix4Dreactは完全オフラインで現場PCでも処理が出来る。v1.1からは、ソフトウェアの日本語対応もしている。「100枚前後の写真データセットであれば、その処理速度はノートPCでも十分であり、処理中のプレビューも確認できるため、オフライン環境でのデータ確認には有用であることが確認できた」と古橋教授は評価している。
災害大国である日本において、平時から有事のために備える「防災」の意識はとても重要だ。DRONEBIRDは、日頃からパイロットのスキルを磨き、新しいメンバーを増やし、また様々なドローンを使用する経験を積むことで、今後とも運用を安全にスケールアップできるよう取り組んでいる。災害被害把握にドローンマッピングが活用される場面はこれからも多くあるだろう。有事に迅速な対応を可能とする、各関係者の平時の活動は今日も続く。
(謝辞) 本記事を作成するにあたり、ご協力頂きましたDRONEBIRD古橋大地教授および関係者の皆様に御礼申し上げます。 |